2020新作映画鑑賞総括

2020年が終わった。 誰にとっても、等しく未曾有の一年だった。 一月に中国ではじめて確認された新型コロナウイルスは、瞬く間に世界各国へ広がった。ここ日本でも晩冬あたりから本格的に感染者数が増大し、コンサートなどのイベントは中止に、学校は休校に…

「アルプススタンドのはしの方」感想

映画「アルプススタンドのはしの方」を観てきた。以下感想を。 あらすじ 夏の甲子園1回戦に出場している母校の応援のため、演劇部員の安田と田宮は野球のルールも知らずにスタンドにやって来た。そこに遅れて、元野球部員の藤野がやって来る。訳あって互いに…

2019年下半期映画鑑賞総括

2019年がとうとう終わりましたね。実感がなさすぎる。体感だとまだ10月上旬ぐらいなのですが。時空が歪んでいる…… ……などと現実逃避をしていても仕方がないので、2019年上半期もやった映画鑑賞総括を、下半期も。上半期と同様、観た映画の中で特に心に残って…

言葉をどんなに並べても━「マリッジ・ストーリー」

「マリッジ・ストーリー」を観た。Netflixオリジナル映画だということを知らずに、普通に映画館に観に行ったのだが、アイリッシュマンといい、映画好きにとって、Netflixが必須ツールとなる時代がそろそろ本格的に来ているのだなと少し慄く。やっぱり入会し…

「ジョーカー」という危険な映画と、その牙を抜いてみせる「ボーダー 二つの世界」について

2019年10月4日、今年もっとも映画界を揺るがせた作品のうちの一本・「ジョーカー」が公開された。コメディアンとして人に笑顔を与えることを目標としていた主人公・アーサーが、生まれもった障害や周囲からの迫害、福祉の打ち切りなどによって徐々に追い詰め…

けっして消えない絆と愛━「映画すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」

すみっこを好む個性的なキャラクターでおなじみの、サンエックスの大人気シリーズ「すみっコぐらし」の劇場版。すみっコたちはある日、行きつけの喫茶店の地下室で、ふしぎな飛び出す絵本を見つける。眺めているうちにしかけが動き出し、絵本の中に吸い込ま…

社会の外で生き延びろ━「ウィーアーリトルゾンビーズ」

「ウィーアーリトルゾンビーズ」を、キネカ大森にて、「僕はイエス様が嫌い」との二本立てで観てきた。 この映画、ソフト化すらされていない時期に、異例の「丸一日無料配信」がなされていた。8月31日、つまり夏休みが終わる日=“最も憂鬱な日”に、「今悩ん…

「裏のお仕事」映画の「裏」の顔━「メランコリック」

「メランコリック」観た。 この映画、観終わった後パンフ読んではじめて知ったのだが、低予算で作られたインディーズ作品らしく。普通にレベルが高く全然気付かなかった……。巨匠が今も傑作を生み出しているいっぽうで、こういう若い才能がどんどん出てくるの…

不可逆の青春─「葬式の名人」

映画に限らず、フィクションならだいたい何でもそうなのだが、アクションだのサスペンスだのと数多あるジャンルのなかで、「青春モノ」というのは受け手からの愛され方という点で群を抜いて強い。青春時代というのは誰もが通過してきた地点であるから共感を…

父と母と息子の物語と、ミクロな視点からの平和主義─「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

huluで「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」を観た。以下感想を。 主人公の少年・オスカーは、アスペルガー症候群の疑いがあり、コミュニケーションが苦手だ。そんな息子のために父が作ったのが、「調査探検」という遊び。「ニューヨークには、かつ…

薄味だが、決めるところは決めている─「引っ越し大名!」

「引っ越し大名!」を観てきた。以下感想を。 キャラクターの魅力も申し分なく、笑いどころも多々あり、及第点ではあるのだが、まず引っ越しするまでが長い長い。物を捨てたり借金したり人員削減したりと、色々やってはいるのだが、場面が変わらず絵的に地味…

被支配者の業─「ドッグマン」

あらすじ 「ゴモラ」などで知られるイタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督が、1980年代にイタリアで起こった実在の殺人事件をモチーフに描いた不条理ドラマ。イタリアのさびれた海辺の町。娘と犬を愛する温厚で小心者の男マルチェロは、「ドッグマン」という…

個人と社会の再生物語─「アマンダと僕」

あらすじ 突然の悲劇で肉親を失った青年と少女の絆を描き、2018年・第31回東京国際映画祭で最高賞の東京グランプリと最優秀脚本賞をダブル受賞したフランス製ヒューマンドラマ。パリに暮らす24歳の青年ダヴィッドは、恋人レナと穏やかで幸せな日々を送ってい…

2019年上半期映画観賞総括

やたらと漢字の多いタイトルになってしまった。 2019年前半戦が終わりましたね。時間が進むのが早すぎて目眩がします。個人的にこの半年は色々と変化だったり挑戦だったり、うまくいったり失敗したりとめまぐるしかったのですが、楽しいことばかりではない日…

生まれ直す時代と女---「私の20世紀」

映画『私の20世紀』4Kレストア版 公式サイト イルディコー・エニェディ監督による三十年前の幻の処女作・「私の20世紀」を観た。以下感想を。 あらすじ エジソンが発明した電球のお披露目に沸き立つ1880年、ハンガリー・ブダペストで双子の姉妹が誕生した。…

2016年〜観た映画まとめ

ここ数年は割と入退院の繰り返しで、あまり映画は本数観れていないのですが、漸く生活も落ち着きだしたので、2015年にやったきり(2015年上半期観た映画まとめ - 東のエデン)だった、観た映画のまとめをやります。2016年からになります。なんだかんだで多いの…

お母ちゃんは神様です--「湯を沸かすほどの熱い愛」

映画「湯を沸かすほどの熱い愛」を観た。以下感想を。ネタバレしています。 あらすじ:宮沢りえの「紙の月」以来となる映画主演作で、自主映画「チチを撮りに」で注目された中野量太監督の商業映画デビュー作。持ち前の明るさと強さで娘を育てている双葉が、…

「僕と君」からはじめる世界改革——「グリーンブック」

(※映画「グリーンブック」は、とっても面白い映画です。まだご覧になっていない方は、ネタバレ満載のこのエントリを読む前に、是非劇場に足を運んでみてください。) あらすじ 時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニ…

時代遅れの名作ーーシェイクスピア『じゃじゃ馬ならし』

不勉強なもので、恥ずかしながらシェイクスピア作品は今まで四大悲劇しか読んだことがなかったのですが、先日「じゃじゃ馬ならし」を読み、ちょっとかなり納得のいかない内容だったもので軽く所感などを。 簡単に粗筋を述べると、金持ちの主人の家に美しい娘…

サラ・ウォーターズ『エアーズ家の没落』と、「風呂敷を畳む」ということ

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫) 作者: サラ・ウォーターズ,中村有希 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2010/09/18 メディア: 文庫 購入: 2人 クリック: 91回 この商品を含むブログ (39件) を見る エアーズ家の没落下 (創元推理文庫) 作者: サラ・ウ…

人生が表面をさらうように交差する場所ーー『クワイエットルームにようこそ』

松尾スズキによる2007年の映画、『クワイエットルームにようこそ』を観た。以下感想を。ネタバレ注意。 フリーライターである作倉明日香(内田有紀)は、目覚めると見知らぬ病室にいた。そこは入院患者の中で「クワイエットルーム」と呼ばれる、精神病院女子病…

「自衛」論の暴力性、非対称性

21日、出会い系で知り合った中一女子を連れ去った容疑で21歳の会社員が逮捕されている。 www.sponichi.co.jp このニュースを受けた小池一夫氏のTwitterにおける発言が、数日前から物議をかもしている。ツイートの内容はこうだ。 【今日の家人】今日も中1の…

奴隷の鎖自慢やめようぜという話

昨日ぐらいから、男「女はなんでヒールなんかはくんだ?」女「他に選択肢がないんだよ!」 - Togetterまとめ多分このまとめが発端なんだと思うが、Twitterのタイムラインは「ヒール履くのがマナーって風潮マジでクソ」というツイートで一色だった。ヒールの辛…

2015年上半期観た映画まとめ

本のまとめをやったからには、映画のまとめもやらんとな、ということで。 2015年上半期を一言で表すならと聞かれたら、間髪入れず「映画」と答えるようなそんな半年だった。私はもともと映画が苦手で、だってテレビ見る習慣無いから二時間画面見つめてるだけ…

2015上半期読んだ本まとめ

折角ブログも始めたんだしこういうまとめもやってみようかと思う。一応記録自体は読書メーター/鑑賞メーターでつけているのだが、必ずしも感想を記している訳ではないし、たまにはアウトプットでもしてみようかと。 2015年上半期に読んだ本は38冊でした。少…

ラスト五分の驚愕と、ラスト五秒の恐怖―映画『イニシエーション・ラブ』

(※映画『イニシエーション・ラブ』は、とっても面白い映画です。予告編や公式サイトでも散々宣伝されている通り、驚きのどんでん返しも用意されていますので、まだこの映画を観ていない方は、ぜひまず劇場に足を運んでから、ネタバレ満載のこのエントリを読…