被支配者の業─「ドッグマン」

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あらすじ

ゴモラ」などで知られるイタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督が、1980年代にイタリアで起こった実在の殺人事件をモチーフに描いた不条理ドラマ。イタリアのさびれた海辺の町。娘と犬を愛する温厚で小心者の男マルチェロは、「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを経営している。気のおけない仲間たちと食事やサッカーを楽しむマルチェロだったが、その一方で暴力的な友人シモーネに利用され、従属的な関係から抜け出せずにいた。そんなある日、シモーネから持ちかけられた儲け話を断りきれず片棒を担ぐ羽目になったマルチェロは、その代償として仲間たちの信用とサロンの顧客を失ってしまう。娘とも自由に会えなくなったマルチェロは、平穏だった日常を取り戻すべくある行動に出る。

 

感想

私はとにかく「業の物語」が好きなんですが、本作もまさにそういう話で最高でしたね。

 

マルチェロがシモーネに支配され続けていたのは、何も彼が弱いからというだけではなく、困った顔をしつつもさしたる抵抗せず何だかんだそれを良しとしていたから。終盤、マルチェロは復讐に身を投じていくわけだが、ラストのロングカットでの彼の表情が示す通り、その反社会的行為で確実に彼は様々なものを失うわけで、それは実のところ、長年の被支配を良しとしてきた彼自身のツケを払っただけとの解釈も十分に可能だし、実際そうであると思う。シモーネの横暴を野放しにし、実質加担していたという罪こそ、前述した「マルチェロの業」なのだ。

 

人物描写や人間関係の書き込みもしっかりしている。2人のやりとりを見ながら割と早い段階で観客は「この関係はきっと何十年も前から続いてきたのだろう」と気づくし、マルチェロもちゃっかりクスリの恩恵に預るなど、2人を善/悪の単純な二項対立で描く事を回避しているゆえに同情の余地を作らせないのも巧いなと。

 

表面だけなぞると復讐譚だが、これはひとりの男が自分が撒いた種を拾ってゆく、徹頭徹尾「業」を描き切った自業自得の無常感漂う120分で、大満足でした。